Japan On the Globe(1389) 国際派日本人養成講座
The Globe Now: マルクス主義流の内部分断戦術に冒されたアメリカ
「アメリカの建国は奴隷制を維持するため」などのプロパガンダで、人種対立を燃え上がらせる内部分断戦術。
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1.不法入国者の不法投票に期待するアメリカの民主党
大統領選の真っ最中のアメリカ。そんな中で、産経新聞のワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が、驚くべき記事を書いていました。バイデン政権下で1100万人も不法移民が入国し、民主党は彼らが不法投票で民主党に投票することを期待しているというのです。[古森]
アメリカ憲法は国籍保有者のみが投票できると決めています。しかし、実際の有権者登録は誰でもとれる運転免許と一体となり、国籍も自己申告の場合が多く、投票の場でも国籍の証明は求められない、と言います。となれば、自己申告で「米国籍を持っている」と詐れば、不法移民でも投票できます。
共和党は有権者登録の厳格化や投票時に国籍を証する書類の提示を求める「米国投票資格保護」(SAVE)法案を下院で7月に可決させました。民主党は有権者の国籍証明義務は選挙の自由の抑圧になるなどと主張し、法案の上院審議に反対して成立を阻止しています。
共和党側は「民主党はバイデン政権下で入国してきた不法移民に投票させる意図で法案に反対するのだ」と反論しているそうです。ちょうど日本で左翼政党が外国人参政権を推し進めようとしているのも、同じ構図かと思えてしまいます。ただ、日本の場合は戸籍がしっかりしていますから、不法投票まで心配する必要はありませんが、アメリカの混乱はここまで行っているようです。
2.1100万人もの不法移民を招き入れたバイデン政権の魂胆
古森氏と同じ主張を、全米で120万部も売れたベストセラー『American Marxism アメリカを蝕む共産主義の正体』[レヴィン]も述べています。
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批判的人種理論(JOG注: 後述)を受け入れていたバイデンは、大統領に就任するとすぐに、移民政策を一方的に変更する五つの大統領行政命令に署名した。いずれも、「ラテン系(JOG注: 中南米)批判的人種理論」運動に賛同し、それを支援する内容である。
これによりバイデンは、国境の壁の建設を中止させ(のちにほんの21キロメートルばかり建設を続けた)、トランプ政権の移民取り締まり政策を終わらせ、100日間の本国送還猶予措置を設け、法的地位のない個人への恩赦を提案した。
そのうえ、トランプ政権がメキシコなどの中米諸国から合意をとりつけていた、アメリカ=メキシコ国境にやって来た亡命希望者を三つの中米諸国のいずれかに送還する協定を破棄した。[レヴィン、p156]
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入国管理当局は、バイデンの政権発足前から、そんな計画を実施すれば移民の波が押し寄せて、国境や移民制度が対処不能になると警告していましたが、バイデンはそれを無視しました。
アメリカの世論調査会社ギャロップ社は、中南米に住む4億5千万人の成人を対象にした調査で、推定4200万人が「可能であれば、アメリカに移住したい」と考えている、という推計を発表しました。バイデン政権が迎え入れた1100万人は、その一部に過ぎません。まさに「狂気の沙汰」ですが、その「狂気」をもたらしたのが、「批判的人種理論」です。
3.先住民を駆逐し、アフリカ人を奴隷化してきたアメリカ
「批判的人種理論」とは、日本で言えば「自虐史観」です。その代表的な運動が、「ニューヨーク・タイムズ」紙が進めている「1619年プロジェクト」です。今まで、アメリカの国家の始まりは信教の自由を求めてやってきたメイフラワー号がニューイングランドに到着した1620年だったと教えられ、それがアメリカ社会の常識となっていました。
「ニューヨーク・タイムズ」紙は、それを1619年に変えようというのです。この年、イギリスがアメリカで最初に建設した植民地バージニア州のジェームズ・タウンに、初めてアフリカから黒人奴隷がもたらされました。アメリカは当初から、奴隷制という悪に基づいた国家だったというのです。
このプロジェクトのために制作されたカリキュラムが、3500以上の学校に配布されています。そして、このプロジェクトのために制作された動画では、考案者であるニコール・ハンナ=ジョーンズがこう述べます。
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この国が、世界にかつてなかったほど自由に奉仕する民主国家だということを受け入れるためには、当然のことながら、すでにこの地に住んでいた先住民の存在を忘れ、(中略)奴隷化されたアフリカ人を無視することが必要になります。[レヴィン、p132]
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日本が軍国主義で世界を侵略しようとしたなどという日本の自虐史観は、事実に基づいて批判しうる余地が大きいのですが、アメリカの場合は先住民を駆逐し、アフリカから奴隷を連れてきた事実は否定のしようがないので、こちらの方がはるかに深刻です。
前節で、「ラテン系批判的人種理論」運動への言及がありましたが、これもテキサスからネバダ、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ、ワイオミング、コロラドからカリフォルニアまでの広大な地域は、かつてメキシコ領だったのを、1846年から48年までの米墨戦争で奪ったものです。
ですから、これらの地域にラテン系人種、すなわちメキシコ人が入っても、もともとアメリカに奪われた故地に戻っただけと言われれば、「不法入国」とは言えなくなってしまいます。こうして「批判的人種理論」はアメリカという国がいかに白人以外の人種を虐げてきたか、をとことん攻撃するのです。
4.アメリカの独立は「奴隷制を存続させるため」?
こうした批判的人種理論は、「建国の父たちがイギリスからの独立を宣言したのは『奴隷制を存続させるため』だったとまで主張します。専門の歴史学者たちは、こうした荒唐無稽な主張を声高に批判しています。
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・・・アメリカ独立革命は奴隷制を支持する出来事だったなどという見解は、かつては、漫画のような歴史理論を信奉する陰謀論好きの活動家の間で共有されているだけだった。このプロジェクトは、そのような見方を教室へと持ち込み、至るところで真面目な歴史学者を驚愕させることになった。[レヴィン、p133]
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その学問的方法論においても、批判的人種理論は、歴史を装った「似非学問」だと批判されています。
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歴史に関する論争を解決する際には一般的に、歴史学者が学術論文に、もっとも信頼できると思われる論拠や出典を提示する。そうすれば両陣営が、それぞれその証拠を検証し、真実を導き出すことができる。《一六一九年プロジェクト》には、このような透明性が欠けている。
(中略)ハンナ=ジョーンズは、きわめて無謀な主張を展開しておきながら、出典をまったく挙げていない。[ニューヨーク・タイムズ・]マガジン誌に[当初]掲載された論文には、脚注や参考文献など、学術的な立脚点が一切示されていない。[レヴィンp133]
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この点でも、何の根拠も挙げずに「日本軍国主義は世界征服を目指した」と主張する類いのプロパガンダ的自虐史観と同類です。
5.「人民を対立するグループに分割する」内部分断戦術
それにしても、こういう批判理論を展開する人々は何を目指しているのでしょうか? レヴィンは、こう指摘します。
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このように[扇動家やプロパガンダ機関は]、『人民』全体の幸福を説きつつ、人民を対立するグループに分割することで、既存の社会や支配を打倒して新たな社会や支配を打ち立てるために必要な方向へ人民を扇動できるようにしている。[レヴィンp22]
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ここでは「人民を対立するグループに分割」という点がキーポイントです。たとえば、「アメリカは人々の自由と平等を追求するために、イギリス帝国主義から独立した」という理想の下でなら、白人も黒人もメキシコ人も、自分たちの自由と平等を押し広げるために、一致協力しよう、という姿勢を生み出します。
それが逆に「アメリカは奴隷制を存続させるために独立した」などというプロパガンダを信じてしまうと、黒人はそんな国家のために尽くすことは人種差別を広げることだとして、現在の体制への協力を拒みます。それどころか「ブラック・ライヴス・マター」(BLM、「黒人の命は大切」)のように、暴動を起こしたり、警官を襲撃することも許されると主張するようになります。
それに対して、当然、白人や良識ある黒人たちは反発します。こうして批判理論は「人民を対立するグループに分割する」のです。
この「内部分断戦術」は、マルクス主義が生み出したものです。マルクス主義は、社会を資本家階級と労働者階級に分断し、資本家の労働者搾取が歴史の真実だと主張しました。これを白人と黒人と置き換えれば、批判理論はマルクス主義のアメリカ版である、というレヴィンの主張が頷けます。
6.憎悪と分断で権力を握っても
前節の引用の続く部分、「既存の社会や支配を打倒して新たな社会や支配を打ち立てる」が、マルクス主義や批判理論を唱える人々の狙いである、とレヴィンは指摘しています。
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革命により既存の体制や国家の打倒に成功したあとに生まれるという楽園は、中央集権的な警察国家の域を出ない。そのなかでは、個人は事実上消耗品であり、「大衆」はその国家を管理・運営する政党や個人の目的を果たすよう強いられる。そのような国家の具体例が、中国や北朝鮮、ベネズエラ、キューバなどである。[レヴィン、p30]
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歴史上、マルクス主義者たちが、いくつかの国家で、資本家階級に対する労働者階級の憎しみを燃え上がらせて革命に成功し、権力を握りました。その最初の成功例がソ連でしたが、それはまさしく「中央集権的な警察国家」そのものでした。そこでは、自分たちの権力保持に反対する人々を大量に殺害しました。
フランスの研究者ステファヌ・クルトワ他による『共産主義黒書』によれば20世紀の共産主義の犠牲者は以下のように、1億人近くに達します。
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ソ連:2000万人、中国:6500万人[b,c]、ヴェトナム:100万人、北朝鮮:200万人、カンボジア:100万人、東欧:100万人、ラテンアメリカ:15万人、アフリカ:170万人、アフガニスタン:150万人、その他政権についてない共産党:1万人[JOG(1173)]
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内部分断戦術の憎悪と敵対の暴力によって現体制を打倒して権力を握った政権は、引き続き内部の敵に対する暴力によって権力を維持していかなければならないのです。
労働者階級の解放を謳って権力を握ったマルクス主義者たちが、労働者階級の幸福を実現できなかったように、黒人差別の解消を謳うBLMが権力を握っても、白人との人種対立を激化するアプローチでは憎悪と敵対は止まず、黒人の幸福すら実現できないでしょう。
7.内部分断戦術に欠けているもの
私は合計7年、アメリカに住んで、アメリカの歴史も多少は囓りました。アメリカの人種問題は根が深いのですが、人類の歴史の中でアメリカほど人種問題に真剣に悩み取り組んだ国も少ないと思います。その努力をBLMは認めません。人種問題に火をつけて、人種間の憎しみと敵意を燃え上がらせて革命の炎にしようという彼らにとっては、平和的な手段でこの問題を解決されたら困るからです。
黒人解放に大きな足跡を残したのは、マーチン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」演説に始まる公民権運動でした。そこには、こんな一節があります。
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私には夢がある。いつの日かジョージアの赤土の丘で、昔は奴線だった人の子孫と昔は奴款の主人だった人の子孫が、友愛のテーブルを囲んでー緒に座ることを、私は夢見る。
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私の敬愛するレーガン大統領は、キング牧師の誕生日を国の祝日とし、こう語っています。
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マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、アメリカへの信頼と人類の未来への信念を語っていた。彼は現状を否定し、あるべき姿を求めた。その夢のために、人生を捧げた。彼の夢の多くは現実となったが、いまだ達成すべき多くの夢も残っている。
キング博士の信念は我々全員に進むべき道を示す希望の灯火となっている。我々は、アメリカのあるべき姿に向かって、ともに努力を続けるのである。[拙訳、Reagan]
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キング牧師の前向きな夢は、白人も黒人も含めた米国民の心に「希望の灯火」を点じて、人種平等に向けて「ともに努力を続け」させたのです。これに比べれば、BLMなどの憎悪と対立を煽るマルクス主義流内部分断戦術の邪悪な本質がよく分かります。
キング牧師のアプローチは国民全体が「希望の燈火」を掲げて、力と知恵を集めて、より幸福な共同体を作る正道でしたが、現代アメリカの「批判的人種理論」はマルクス主義流の内部分断戦術で憎悪と敵対を煽り、共同体の支柱である国民同胞感を撃ち砕き、社会全体を不幸にしてしまいます。
自由世界のリーダーだったアメリカが、マルクス主義流の内部分断戦術に冒されて、共同体としての希望と力を失っている現状は、国際社会全体にとって、極めて危険なことです。
(文責 伊勢雅臣)
(2024年9月29日転載終)